未来の価値 第43話


ナリタ連山。
日本解放戦線の本拠地があると言われるこの場所に、ブリタニア軍は進軍を開始した。主力であるKMFを大量に投下し、反抗勢力を一気に叩きつぶす。クロヴィスの指揮のもと、全部隊は一斉に山を駆け登った。
友軍である、特派をのぞいて。

「クロヴィスお兄様、この山にテロリストがいるのですか?」

戦場を自分の目で見てみたいと共に来ていたユーフェミアが、司令官席に座るクロヴィスに尋ねた。本来ここにはルルーシュもいるはずなのだが、ルルーシュは今、KMFを駆り前線にいた。勝ちが決まっているこの戦で、唯一クロヴィスが頭を痛めているのはそれだった。
ルルーシュの騎乗技術はかなり高いが、エース級の敵が現れたら太刀打ちできない。だから前線と言っても、その中では後方のほうで、護衛にしっかりと守られた状態ではあるが、戦場にいることには違いなかった。空撮では基地らしきものは発見されなかったため、地形を活かした自然の砦を築いている可能性が高く、モニター越しでは緊急時の対処も遅れる可能性があると、周の反対に聞く耳持たず出撃してしまった。
そもそも、これだけの兵力差があれば、多少のイレギュラーが起きたとしても勝ちは揺るがず、クロヴィスの指揮だけで十分な作戦だ。継承権の上下が入れ替わるというイレギュラーに対し、ラ家に仕える者達に『継承権は入れ替わったが、あくまでも自分はクロヴィスの下、その指揮下にある』という事のアピールでもあるのだ。

「この山の何処かにあることは間違いないのだが、残念なことにまだそれが何処かは解っていなのだよ。だからこそルルーシュも前線で動いている。自然に見せかけた人工物を見つけるためにね。どれほど巧妙に隠れても見つけるのは時間の問題だよ。エリア11最大のテロ組織を叩き潰せば、今後このエリアも静かになるだろう」

クロヴィスの言葉に、ユーフェミアは顔を雲らせた。
ここで今日決着がついたとしても、テロ活動はなくならない。静かにもならないだろう。それはクロヴィスもわかっているはずだからと、あえて口にはしなかった。たしかに規模は日本解放戦線が最大だが、勢いで言うならば黒の騎士団の方が問題だった。
河口湖で名乗りを上げた仮面の男ゼロが率いる黒の騎士団は、瞬く間に勢力を伸ばしていった。だが、彼らは自らを正義と名乗り、強き者が弱者を虐げた時に裁くと公言した通り、その矛先はブリタニアのみならず、名誉ブリタニア人となったイレブンの富裕層にまで及んだ。そして誰もが驚いた事だが、河口湖のようなテレビ中継などがななくても、ブリタニア人、イレブン分け隔てなく助け出していった。
その姿から人々はテロリストとしてではなく、本当に正義の味方として彼らを受け入れ始めていて、ブリタニア軍も下手に手出しが出来ないのだ。何せ軍が、警察が見逃していた犯罪を暴きだし、制裁を加えている姿は人々に英雄視されており、たとえそれが法に触れるやり方であっても、今黒の騎士団に手を出せば軍、あるいは警察はやましい事を抱えているのではないかと疑心暗鬼を呼びかねない。
ルルーシュに言わせれば「なかなかうまい手だ。後手に回ったこちらは、黒の騎士団に手を出しにくくなったな。だが、これは人心をつかむことでテロを正当化させているだけにすぎない」そうだが。
クロヴィスはすっと目を細め、モニターを見つめた。
KMFが山の中腹辺りまで進軍している事がモニターの機体認識番号でわかる。日本解放戦線の拠点が近いのであれば、そろそろ何かしらの動きがあるはずだ。
その時。
突如地面が大きく揺れ動いた。
立っていられないほどの振動と地鳴りに、何事だというバトレーの怒鳴り声と、オペレーターだろうか、女性の悲鳴が響き渡った。
モニターはブラックアウトし役には立たず、状況は全く把握できないという情けない状態に、クロヴィスは舌打ちする。これだけの揺れだが、少なくてもここにけが人は出なかったらしいと、妙に冷静に判断していた。地震大国とも呼ばれる国だ。揺れには多少だが慣れている。ユーフェミアは彼女の教育係としてコーネリアが派遣してきたダールトンによって守られていたから、こちらも問題は無い。
激しかった振動は次第に静まったが、代わりに地響きが近づいてきた。

「なんだ?何が起きた!」
「・・・こ、これはっ!総督!山崩れです!!」

モニターには、山の一角が崩れ落ち、KMFが次々に飲み込まれていく様が映し出されていた。


***


「地震にしては、不自然な揺れ方だねぇ」
「そうですね・・・」

少し離れた場所に、友軍として待機している特派の科学者は、モニターを見てそう呟いた。本来ではあり得ないほどの揺れ。地震大国ではあるが、このタイミングでこの場所。そのうえ数値は異常、此処までそろえば、人為的に起こしたのではないかと疑ってしまう。
計算上の話だが、人為的に行う方法は、ある。
そして、波長の測定結果から、ロイドとセシルが導き出した答えは同じものだった。

「ロイドさん、セシルさん、今の地震は・・・!」

ランスロットに騎乗していたスザクは、揺れが収まると同時に二人の元に駆け寄った。

「山崩れ、みたいだね」

見てみなよとロイドが示したモニターには、その様子が克明に表示されていた。飲み込まれLOSTしていくKMFにスザクの顔色はみるみる青ざめていった。

「山崩れ!?そんな・・・ルルーシュ!!」

急いで助けに行かなければと、ランスロットへ向かおうとしたのだが。

「それは大丈夫。殿下の場所から離れてるから、巻き込まれる心配はないね」

じゃなきゃ、僕が落ち着いているわけ無いじゃない。
へらっと笑いながらロイドは当然のように答え、スザクは安堵の息を吐いた。
やはり処罰を受ける覚悟で止めるんだった。ルルーシュがKMFで出る必要なんて無かったのに・・・!
自分の目で見て、人工的な何かがないか調べたい。自分が前線にいれば、緊急時の対応も臨機応変にできるだろう。後方にいてKMFにも守られる位置にいるし、危険ならすぐ引き返す。総督と副総督の許可は貰っているんだから文句を言うな。そう言って笑いながらグロースターに乗り込んだルルーシュの姿が思い浮かぶ。

「これがルルーシュですか?」
「そ、それが殿下」

確かにその場所は後方で、多くのKMFに守られていた。そして崩れたがけからも離れた場所。ほっと安堵したのはほんの一瞬で次の瞬間、画面には今まで居なかった機体が次々に表示された。
突如現れた無数の機体が、山の上から駆け降りてくる。
Gベースから流れてくる通信から『黒の騎士団』という言葉が響いてきた。


***


日本製の深紅のKMF紅蓮。
そしてグラスゴーを改造した日本式KMF。
その中でも1機だけ形の違う機体・・・恐らく指揮官機が静かに近づいてくる。
それらに囲まれて、ルルーシュは静かに息を吐いた。
護衛機はすべて撃破され、残っているのは自分のみ。
しかも駆動系を破壊されている以上、逃げることも戦う事も出来ない。

『投降していただけますか、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア殿下』

「成程、その機体に騎乗しているのはゼロか。これだけの戦力を此処に集めたという事は、最初から狙いは私か?」

その問いかけに、通信機の向こうから小さな笑い声が聞こえた。

『その通りです。抵抗するだけ無駄だという事は、貴方なら理解できるはず。大人しくこちらへ来ていただきたい』

ゼロの騎乗するKMFは腕を伸ばした。

「ほう?私がこの身可愛さに、あっさりと投降すると思っているのか?」
『ええ、思っています。なぜなら貴方はまだ死ねない。生きなければならない理由がある』

全てを知っていると言わんばかりのゼロの言葉に、ルルーシュは眉を寄せた。

「知ったような口をきくな、テロリストが」

この状況を本陣に知らせたくても、通信回線がエラーを起こしている為不可能。
ゼロは抜かりなくすべてを破壊していた。

『貴方に選択肢は無い。時間稼ぎにこれ以上付き合うつもりも無い。さあ、降りていただこうか』

やはり気付かれているかとルルーシュは舌打ちをした。その瞬間、ゼロの機体はルルーシュのグロースターの両腕を切断する。拘束していた腕を切る理由は唯一つ、これ以上長引かせるなら、コックピットを破壊するという事。その証拠に、切っ先をコックピットの中心に向けてきた。
ルルーシュはすっと目を細めた後、コックピットから姿を現した。
KMFに囲まれたその中に生身の体を晒し、それでも尚ルルーシュは凛とした佇まいでそこにいた。紅蓮のパイロットであるカレンは、自分の知っているルルーシュとはまるで別人の、王者の気質を備えた皇族を前に圧倒され、手に汗が滲んだ事に気がつき、慌てて服で汗をぬぐった。
迷うな、惑わされるな。
顔見知りだが、敵なのだ。
そのルルーシュの視線が紅蓮に向いた時、カレンは心臓を跳ねあがらせた。まるで、ここにカレンがいることに気づいているような視線だった。
相手は生身でこちらはKMF、しかも紅蓮に乗ってるというのに、まるでこちらがチェックメイトを掛けられているような気がして、恐怖から体が震え、思わず固唾をのんだ。
だが、ルルーシュの視線はしばらく紅蓮を見つめた後、再びゼロに向かった。

「で?私をどうするつもりだ?」
『御心配には及びません。手荒な事をするつもりはありませんので』
「どうだか。言っておくが、私を交渉材料になどしても意味は無い。私の命など、ブリタニアと言う国には何の価値も無いからな」

何を言っているんだと、ルルーシュを囲んでいたKMFのパイロットたちはざわめいた。
感情のこもらない声で、淡々と事実だけを言っているように聞こえたが、そんな事はあり得ない。なぜならブリタニアの頂点に位置する皇族。その一人なのだ。必ず重要な交渉材料になるはずだ。だが、その思いはゼロの笑い声でかき消された。

『フハハハハハ、成程、ご自分の立場をよくご存知だ。この日本に人質という名の人身御供として捧げられたにもかかわらず、生き抜いただけの事はある』

ゼロの言葉に、ルルーシュは不愉快そうに眉を寄せ、カレンは何の話?とゼロへ視線を向けた。ざわざわと、小さなざわめきが起きる。

『ええ、存じておりますよ。ブリタニアの皇帝が、貴方と妹姫を人質として送ることで日本を油断させ、その隙に開戦した事を。貴方達はその時ブリタニアに捨てられた。国からの迎えも助けも、貴方たち兄妹の元に来る事は無く、理不尽な咎で爵位を奪われたアッシュフォードだけが貴方たちを救いに来たことを。例え皇族であろうと、我が子であろうと捨て駒にする。それがブリタニアの皇帝だ』
「・・・ほう、良く調べたものだ。そして、随分と饒舌だな」

不愉快そうに顔をゆがめたルルーシュは、腹立しげにゼロの機体を睨みつけた。

『だからこそ、貴方を手に入れようと思ったのです、殿下』
「ほう?人質に使えないと知った上でか?」

挑発するように口角を上げたルルーシュの姿はどこか痛々しく感じられ、周りはしんと静まり返った。

『先ほどから殿下は考え違いをされている。貴方を人質にするつもりはありません。・・・殿下、仇打ちには興味はありませんか?妹姫ナナリー皇女殿下を殺害したブリタニアに、マリアンヌ后妃を殺害したブリタニアに。私は貴方を捕虜とするために来たのではない。貴方を黒の騎士団に迎えるために来たのです』



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話の展開上、本編のストーリーと順番とかいろいろな物が前後したり消えたりしてますが、あまり気にしないでください。
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